物価高騰に伴い賃上げを検討する企業は多いのではないでしょうか。
賃上げを実施する際には、税金が控除される「賃上げ促進税制」の適用も検討しましょう。
賃上げ促進税制とは
「賃上げ促進税制」は、岸田内閣肝いりの政策のひとつです。
企業の賃上げを後押しすべく、賃上げを実施した企業に対して賃上げの金額に応じて税金を控除する制度です。
中小企業では給与等支給額の増加分の最大40%が法人税額から控除されます。
適用要件(中小企業の場合)
ここでは、イメージしやすいように賃上げ促進税制の適用要件を簡単に説明します。
用語の定義や詳細な内容については経済産業省のパンフレットをご確認ください。
【通常要件】
前期に比べて給与等支給額が1.5%以上増加した場合、増加額の15%を法人税額から控除する
【上乗せ要件①】
前期に比べて給与等支給額が2.5%以上増加した場合、税額控除率を15%上乗せ
【上乗せ要件➁】
前期に比べて教育訓練費が10%以上増加した場合、税額控除を10%上乗せ
通常要件に上乗せ要件①②を合わせると最大40%の控除を受けることができます。
なお、法人税の20%が税額控除の上限となっているため、税額控除額がいくら大きくても法人税の20%までしか控除することはできません。
注意事項
適用を検討する際には、次の点に注意が必要です。
①給与等支給額には、役員、使用人兼務役員、役員の特殊関係者(法人の役員の親族など)に支給する給与・報酬等は含まれない。
支給額が調整できてしまう役員報酬等は制度の対象外です。
使用人兼務役員の使用人分給与も対象外となりますので注意が必要です。
②給与等支給額から「給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額」は控除する。
給与等に充てるために支給された補助金・助成金、出向元法人が出向先法人から支払いを受ける出向負担金などが該当します。
実務上、雇用調整助成金、キャリアアップ助成金、特定求職者雇用開発助成金などはよく見かけます。控除することを忘れないようにしましょう。
適用期間
適用期間は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの期間内に開始する各事業年度が対象となります。
(令和5年11月現在ではまだ未定ですが、制度の拡大・延長が検討されています。)
増加額1.5%であれば使える可能性は十分ある
給与等支給額1.5%の増加とはどの程度の賃上げかイメージできますでしょうか?
月給300,000円の従業員の場合、月給4,500円(300,000円×1.5%)の賃上げ。
時給1,000円のパート従業員であれば、時給15円(1,000円×1.5%)の賃上げとなります。
コスト高に悩む中小企業には負担が少ないとは言い難いですが、決して届かない金額ではありません。
「先行きが不透明な状況で基本給を上げるのには不安がある」という企業も多いかと思います。
賃上げ促進税制は必ずしも基本給を上げないといけないということではありません。
毎月の給与だけでなく、賞与の支給額が増えた場合でも適用できます。
例えば、業績がよく前期に比べて賞与を増額した場合、決算賞与(期末賞与)を支給した場合などは賃上げ促進税制を適用できる可能性が高くなります。
賃上げは行っていないが、従業員を増員したという場合でも適用できます。
給与等支給額は前期と同じ従業員数で比較する必要はありません。
従業員数が増えると当然に給与等支給額は増加しますので1.5%以上増加する可能性は高くなります。
知らないと損をする
賃上げを行うのであれば賃上げ促進税制の適用も事前に検討しておきましょう。
決算の際に初めて賃上げ促成税制の存在を知り、慌てて適用できるか検討した結果、わずかに給与等支給額の増加額が少なく、数百万円の税額控除を受けることができなかったということもありえます。
例えば、前期の給与等支給額が5億円、当期の給与等支給額が5億8百万円だったとします。
給与等支給額の増加割合は1.6%(≧1.5%)。
よって、800万円×15%=120万円の税額控除が適用できます。
当期の給与等支給額が5億7百万円であれば、給与等支給額の増加割合は1.4%(≦1.5%)。
賃上げ促進税制は適用できず、税額控除額は0円となります。
期中から賃上げ促進税制の適用を検討していれば、従業員にあと100万円分還元できたうえに、税金を120万円減額することができたかもしれません。
従業員数が多い場合や、パート従業員の占める割合が大きい場合は、給与等支給額の予測が難しく計算通りにいかないこともありますが、事前にどの程度支給額が増加すれば税制が使えるかを検討しておくことは重要です。
特に、決算賞与(期末賞与)を支給する場合は、支給額の調整を行いやすいため、あとどの程度決算賞与を支給すればいくらの税額控除を受けることができるかは確認しておいたほうがいいでしょう。
なお、賃上げ促進税制は、税額控除の制度であるため、法人税が発生しない赤字の法人、繰越欠損金(過去の赤字)がある法人は適用できませんのでご注意ください。
(参考)