令和6年度税制改正大綱 実務に影響する消費税の改正案について解説

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令和5年12月14日に令和6年度税制改正大綱が発表されました。

今回の税制改正大綱で示された消費税の改正案は、大企業やグローバル企業に関係する改正ばかりで中小企業の実務に影響しそうなものは少ない印象です。

その中でも実務に影響がありそうな改正案を3つご紹介します。

[1]高額特定資産に金又は白金の地金等の額の合計額が200万円以上である場合を追加

「高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置」の対象に、その課税期間において取得した金又は白金の地金等の額の合計額が200万円以上である場合が加わりました。

「高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置」とは、簡単にいうと、事業者(本則課税適用)が高額特定資産(取得価額1000万円以上の固定資産など)を取得した場合に、取得した事業年度を含めて3年間は免税事業者になれない、かつ、簡易課税制度の適用を受けれない(いわゆる3年縛り)というものです。

この制度は、本則課税を適用して多額の設備投資による消費税の還付を受けたのち、還付後すぐに免税事業者となる(又は簡易課税を選択して節税する)などの消費税還付スキームを防止するために設けられています。

今回の改正で「金地金等の額の合計額200万円以上」が加わったのは、購入金額を調整しやすく、かつ、売却が容易な金地金等の売買を利用した消費税の還付スキームが横行していたため、その防止のために改正されたようです。

金や白金を利用した消費税還付スキームに手を出していない、真っ当な事業者にはあまり影響のない改正です。

[2]自動販売機特例及び入場券回収特例について帳簿への住所等の記載が不要に

インボイス制度では、インボイスの保存がなくても一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引があります。

帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引のうち、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(いわゆる自動販売機特例)、並びに、インボイスの記載事項が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(いわゆる入場券等回収特例)は、帳簿に記載する一定の事項として、「仕入の相手方の住所又は所在地」を記載する必要があります。

しかし、「○○○市 自販機」、「××銀行□□支店ATM」などと帳簿に記載するのは非常に煩雑です。

住所を記載したからといって税務調査で現場を調べるとも思えず、記載する目的が不明確でした。

そのため、今回の改正では、自動販売機特例並びに入場券等回収特例(3万円未満のものに限る)について、帳簿への住所等の記載が不要とされました。

また、令和5年10月1日以後に行われる同取引についても帳簿への住所等の記載については、記載がなくても改めて求めないこととされました。

これにより、すでに帳簿に住所等を記載せず自動販売機特例等を適用している場合でもお咎めなしとなりました。

自動販売機やATMでの支払の都度、帳簿に住所等を記載しなくてよくなるのは助かります。

(参考)
インボイス制度 自動販売機特例の適用範囲と要件 はこちら

インボイス制度 入場券等回収特例の使いどころがわからない はこちら

[3]簡易課税制度又は2割特例を適用する事業者が税抜経理方式を採用した場合の経理方法の明確化

簡易課税制度又は2割特例(適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置)を適用する事業者が、令和5年10月1日以後に国内において行う課税仕入れについて、税抜経理方式を採用した場合の仮払消費税等として計上する金額につき、継続適用を条件として、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の場合108分の8)を乗じた金額とすることが認められることが明確化されました。

インボイス制度で税抜経理方式を採用する際には、多くの場合、インボイスがある場合は仮払消費税等を計上し、インボイスがない場合は仮払消費税等を計上しない処理を行うことになります。

簡易課税制度や2割特例を適用して消費税の納税額を計算する事業者は、自身の売上に係る消費税を集計するだけで納税額を計算することができるため、課税仕入れごとにインボイスのありなしを把握しておく必要がありません。

また、簡易課税制度や2割特例は、売上さえ把握しておけば消費税を計算することができ、事務負担を大幅に軽減できることがメリットの一つであるにもかかわらず、インボイスのありなしを確認して仮払消費税等の計上を行うかどうかを判断するとなると事務負担が増え、メリットを損なうことになります。

そこで継続適用を条件に、インボイスのありなしに関わらず、支払対価の額の110分の10(軽減税率は108分の8)相当額を仮払消費税等として計上できることとなりました。

つまり、簡易課税制度又は2割特例を適用する事業者は、課税仕入れについてインボイスのありなしに関わらず、継続適用を条件に支払対価の額に110分の10(軽減税率108分の8)を乗じて仮払消費税等を計上してよいことになります

(参考)
インボイス制度 納税額を売上税額の2割に軽減できる2割特例とは?

[おまけ]インボイスの経過措置(80%控除or50%控除)に一取引先につき10億円の上限を設定

インボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置(80%控除or50%控除)について、一取引先からの課税仕れの額の合計額が10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについては、経過措置が適用できないこととなりました。

つまり、経過措置(80%控除or50%控除)は一取引先ごとに10億円が上限となります。

この改正が何を目的とした改正かわかりません。

インボイス発行事業者でない取引先から10億円を超える仕入を行うということが想像できません。

中小企業で該当してくる事業者はほとんどいないと思いますので意識する必要はないでしょう。

まとめ

今回の改正により大きな影響を受ける事業者は少ないと思われます。

影響を受けるのは主に大企業やグローバル企業です。

本則課税の事業者は[2]の改正を、簡易課税・2割特例を適用する事業者は[3]の改正を頭に入れておけば十分です。

インボイス制度がもっと楽になる改正が入らないかと期待しましたが、改正の予定はいまのところないようです。

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