消費税の申告において2割特例の適用を受けている事業者は、簡易課税制度選択届出書の提出期限について特例が設けられています。
簡易課税制度選択届出書の提出期限
まず原則から見ていきます。
簡易課税制度を適用しようとする事業者は、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日(つまり前課税期間の末日)までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することが必要です。
この提出期限について、2割特例の適用を受けた事業者には特例が設けられています。
2割特例の適用を受けた事業者は、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に納税地を所轄する税務署長にその課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出したものとみなされます。
つまり、前事業年度に2割特例の適用を受けた事業者は、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の末日までに届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することができます。
下の図で説明すると、令和8年に2割特例により申告を行った個人事業者が、令和9年から簡易課税制度の適用を受ける場合には、課税期間の初日の前日(令和8年12月31日まで)ではなく、課税期間中(令和9年12月31日まで)に「消費税簡易課税制度選択届出書(令和9年分から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載したもの)」を提出すれば、令和9年分から、簡易課税制度の適用を受けることができます。
特例のメリット
届出書の提出期限が延びることは事業者にとってはメリットです。
原則の提出期限である「適用を受けようとする課税期間の初日の前日」までに簡易課税制度選択届出書の提出を失念していたとしても課税期間の末日までに気づいて提出することができればその課税期間から簡易課税制度を適用することができます。
通常は、課税期間の初日の前日(前課税期間の末日)までに本則課税が有利か、簡易課税が有利かを検討して届出を提出するため、簡易課税を選択したが結果として本則課税のほうが有利だったということが起こり得ます。
しかし、この特例を使えば、課税期間の末日まで売上・費用の状況、設備投資の状況を見ながら消費税の申告方法を選択することができるため、高確率で有利となる申告方法を選択することができます。
提出漏れを避けるため、早めに簡易課税制度選択届出書を提出するのも一つの手ではありますが、設備投資を行ったことにより本則課税が有利となるケースを想定して、有利不利が判定できるタイミングまで届出の提出を遅らせたほうがいいでしょう。
ちなみに、当事務所では提出漏れのリスクを避けるため提出期限ギリギリではなく、期限の1~2カ月前までには届出を提出するようにしています。
小規模事業者の方は届出漏れに注意
簡易課税制度は2割特例と違い届出を提出していないと適用できません。
提出期限が適用を受けようとする課税期間の末日まで延長されても、肝心の届出の提出を忘れていたのでは意味がありません。
考えられるのは、消費税の申告の時になって2割特例が適用できないことに気づき、さらには簡易課税制度選択届出書を提出していなかったというケースです。
2割特例を適用しようと考えていたため、仕入や経費の消費税処理を適切に行っておらず、かつ、簡易課税も適用できないとなると、申告の際に苦労することになります。
税負担も大きくなるかもしれません。
申告の時に気づいたのでは手遅れとなります。
特に、税理士がついていない事業者の方は届出の提出漏れに注意しましょう。
まとめ
2割特例の適用を受けている事業者は、簡易課税制度選択届出書の提出期限がその適用を受けようとする課税期間の末日まで延長されます。
本則課税と簡易課税の有利判定を行ってから届出を提出したい事業者は、特例のメリットを生かして課税期間の末日まで設備投資等の状況を見て届出を提出しましょう。
課税期間の末日まで待たなくても簡易課税が有利となる可能性が高い事業者、事務負担の軽減から簡易課税を選択したい事業者は忘れないうちに提出するのがいいでしょう。