働き方改革の一環として副業が推進されており、副業を解禁する企業も増えてきています。
副業推進の流れの一つなのか、令和4年の改正により事業所得と雑所得の区分が整理されました。
副業を行った場合の所得区分について見ていきます。
記帳・帳簿書類の保存が重要な判断基準
結論から言いますと、記帳・帳簿書類の保存があれば概ね事業所得に該当し、保存がなければ概ね雑所得に該当します。
「概ね」とあるように、すべてが記帳・帳簿書類の保存のみで判断されるわけではありません。
記帳・帳簿書類の保存があっても雑所得に該当する場合、保存がなくても事業所得に該当する場合があります。
改正の背景
事業所得と雑所得は以前から区分の判定が難しく、区分を誤り税務調査で問題となることがありました。
また、副業により生じた赤字を事業所得として申告し、給与所得と損益通算することで税金の還付を受ける(雑所得だと損益通算できません)など不適切な処理が行われているケースが多々ありました。
そこで、過度な節税対策の防止と所得区分の明確な基準を示すため令和4年に所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)に改正が入りました。
原則は社会通念で判定
事業所得に該当するかどうかは、原則として「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」で判定します。
この社会通念上というのが非常に厄介です。
曖昧な表現であるため、人によって判断が変わってきます。
具体的には、過去の裁判事例を踏まえて、下記の点を総合勘案して判定します。
①営利性・有償性の有無
②継続性・反復性の有無
③自己の危険と計算における企画遂行性の有無
④その取引に費した精神的あるいは肉体的労力の程度
⑤人的・物的設備の有無
⑥その取引の目的
⑦その者の職例・社会的地位・生活状況
総合勘案、嫌な言葉です。
結局いいのかわるいのか判断に悩みます。
原則は残しつつ、判定基準を示す
事業所得に該当するかどうかは、原則として社会通念上事業といえるかで判定しますが、それでは区分が不明確であったこれまでと変わりません。
そこで、より踏み込んだ判定基準が示されました。
所得税基本通達の解説では次のように記載されています。
事業所得と業務に係る雑所得の区分については、上記の判例に基づき、社会通念で判定することが原則ですが、その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いと考えられます。
国税庁 雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説より
つまり、「記帳・帳簿書類の保存」があれば概ね事業所得に該当するということです。
重要なのは「記帳・帳簿書類の保存さえしていれば事業所得としてOK」といっているわけではなく、原則は社会通念で判定すると前置きしていることです。
「記帳・帳簿書類の保存があれば、社会通念上は事業所得に該当することが多いことは認めますが、絶対ではないですよ。目に余れば指導しますよ。」と釘を刺しています。
(図:国税庁 雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説より)
上記の図は、国税庁が示した事業所得と雑所得の区分のイメージ図です。
[1]の区分は、記帳・帳簿書類の保存があれば、収入金額に関わらず概ね事業所得に該当します。
注意書きにあるように、[1]の区分でも、次の場合は、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。
①その所得の収入金額が僅少と認められる場合
②その所得を得る活動に営利性が認められない場合
①は、その所得の収入金額が、例年(概ね3年程度の期間)300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満の場合が「僅少と認められる場合」に該当します。
②は、その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取り組みを実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当します。
感覚的にも、年間売上が300万円以下で、本業収入の10%にも届かない副業は、事業ではなく雑所得に該当するように思います。
また、毎年赤字なのに副業を続ける人は普通はいませんから、赤字を解消するための取り組みを実施していない場合は、事業ではなく雑所得と言われて仕方ありません。
[2][3]の区分は、原則として雑所得に該当します。
しかし、[2]の区分については、収入が300万円を超える規模で行っているため、帳簿書類の保存がないことだけで判断せず、事業所得と認められる事実が他にあれば、事業所得として取り扱うこととされています。
まとめ
副業収入の所得区分をまとめます。
①記帳・帳簿書類の保存があれば、概ね事業所得に該当。
しかし、収入が僅少な場合、赤字続きで赤字解消の取り組みを実施していない場合は個別に判断。(大前提として、社会通念で判定することが原則)
②記帳・帳簿書類の保存がなければ、概ね雑所得に該当。
しかし、収入が300万円を超えており、事業所得と認められる事実が証明できれば事業所得に該当。
社会通念という判断に迷う部分は残っていますが、改正前に比べると所得区分の判定基準が具体的になりました。
事業所得に該当するか雑所得に該当するか悩む事例でも記帳・帳簿書類の保存があれば、事業所得に該当する可能性が高くなりました(何度も言いますが、必ず事業所得になるわけではありません)。
事業所得になるのか、雑所得になるのかで税金の計算結果が大きく変わってきます。
確定申告前に、ご自身の副業がどちらに該当するかしっかりと確認するようにしましょう。
(参考:所得税基本通達35-2)