インボイス制度では、インボイスの交付が困難であるため、交付義務が免除される特例があります。
そのうちの一つに自動販売機特例と呼ばれるものがあります。
自動販売機特例の適用範囲と適用する際の注意点をみていきます。
自動販売機特例とは
インボイス制度では、3万円未満の自動販売機や自動サービス機からの商品の購入等については、インボイスの交付義務が免除されています。
該当する取引については、インボイスの保存が不要で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けることができます。
これを、「自動販売機特例」と呼んでいます。
問 107
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送などは、請求書等の保存が不要で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を行うことができるそうですが、この場合の帳簿への記載事項について教えてください。
【答】
請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、一定の
事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます(新消法30⑦、新消令49①、新消規15の4)。(省略)
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商
国税庁:消費税の仕入税額控除制度にかける適格請求書等保存方式に関するQ&A 問107
品の購入等
自動販売機で飲み物を購入した場合、自動販売機からインボイスとなる請求書や領収書は交付されない(交付義務もない)ため、少額(3万円未満)であればインボイスがなくても仕入税額控除を行ってもいいですよ、という趣旨で設けられた特例となります。
自動販売機特例の対象
自動販売機特例の対象には、自動販売機による飲食料品の販売、コインロッカーやコインランドリー等によるサービス、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振り込みサービスのように、機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当します。
例えば、コンビニやスーパーに設置してある自動精算機付きのコピー機、銀行の両替機、宿泊施設に設置してある有料のマッサージ器なども特例の対象になるものと思われます。
対象とならないものは、
①機械装置により単に精算が行われているだけのもの
⇒小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売など
②代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなもの
⇒コインパーキング、自動券売機など
③機械装置で資産の譲渡等が行われないもの
⇒インターネットバンキングなど
実務上、②のコインパーキングや自動券売機での取引を特例の対象としてしまう誤りが多いと思われます。
「自動販売機特例」という名称から自動券売機での取引は特例の対象になると誤認してしまいそうです。
また、コインランドリーが特例の対象で、コインパーキングは対象外というのは一般の方には理解が難しいのではないかと思います。
コインランドリーは役務提供を行う機械装置(洗濯機)と精算機が一体となっていますが、コインパーキングは機械装置は精算機のみで駐車スペースは機械装置とは別と判断されるため同特例の対象外となっています。
自動券売機は、大手のチェーン店では簡易インボイスが交付されるインボイス対応の券売機が導入されるでしょう。
コインパーキングは、インボイス対応の精算機を導入するところもあれば、そもそもコインパーキングのオーナーが免税事業者のためインボイスをもらえないなど対応が分かれてくるもの思われます。
適用要件に注意
自動販売機特例を適用するためには、帳簿に通常必要な記載事項に加えて、次の事項を記載する必要があります。
①自動販売機特例に該当する旨
⇒(例)「自動販売機特例」と記載
②仕入れの相手方の住所又は所在地
⇒(例)「〇〇市 自販機」、「××銀行□□支店ATM」と記載
①の特例に該当する旨については、帳簿上でその取引がインボイス保存不要の特例に該当することを明確にするため、記載が必要であることは理解できます。
しかし、②の相手方の住所または所在地については、実務上対応が非常に煩雑になることが想定され、記載の目的もよくわかりません。
「〇〇市 自販機」と記載したところで場所が特例できるわけでもありません。
②の記載がないからといって税務調査で細かく指摘を受けるとは思えませんが、法令上は対応が必要となります。
<追記>
令和6年度税制大綱により、仕入の相手方の住所又は所在地の記載を不要とする見直し案が示されました。大綱によれば、運用上、インボイス制度が開始した令和5年10月1日から記載を求めないこととされています。よって、税制改正前から自動販売機特例を適用する際に、相手方の住所又は所在地を記載していなかったとしても税務調査で問題になることはありません。