以前からインボイス制度が始まると売手負担の振込手数料についてどのように対応すればいいのかが問題となっていました。
この問題は令和5年度税制改正による負担軽減措置により解決方法が示されました。
売手負担の振込手数料の対応方法
まずは結論から。売手負担の振込手数料が生じた場合は、
会計上は「支払手数料」の科目で処理、消費税計算上は「売上値引」で計算、返還インボイスは発行しない
これで解決です。
売手負担の振込手数料の問題
売手負担の振込手数料の問題とは、売手が100,000円の商品を販売し、買手より振込手数料330円を引いた99,670円が入金された場合、この330円(税込)は通常「支払手数料」や「雑費」などの科目で仕訳を計上します。
インボイス制度ではこの330円(税込)を課税仕入れとして処理するのであれば、消費税申告の際に仕入税額控除の対象とするため買手よりインボイスをもらう必要があります。
より正確にいえば、買手が金融機関から受け取った「振込手数料に係るインボイス」+「買手作成の立替金精算」が必要となります。
また、330円(税込)を売上値引として計上している企業もあり、その場合は、売手から買手へ返還インボイスを交付することが必要でした。

実務上、振込手数料の数百円のために買手にインボイスを請求することは困難です。
また、売上値引として計上した場合でも売手がわざわざ返還インボイスを交付することは事務手続きが煩雑となり現実的ではありません。
そのため、どのように対応すべきか議論の的となっていました。
企業の中にはこれを機に売手負担の振込手数料を廃止する動きもあり、今後の振込手数料は買手負担でお願いする旨の文書を送付する企業もでてきています。
また、振込手数料にかかる消費税数十円の仕入税額控除のために煩雑な事務手続きはできないということで、振込手数料にかかる消費税の仕入税額控除をあきらめるという選択肢も検討されていました。
そもそも、商慣行として振込手数料を差し引いて支払うことは一般的になっていますが、実際には請求額と入金額の差額を振込手数料と認識しているだけで本当に買手側で手数料がかかったかどうかはわかりません。
買手はインターネットバンキングを利用して110円(税込)の手数料しかかからなかったが、売手への支払いは330円(税込)を差し引いて支払ったとしても売手はその事実を把握できません。
そのため、請求額から差し引かれた金額が本当に振込手数料なのかといわれると疑問が残ります。
税制改正で示された解決策
この議論を受けて、令和5年の税制改正により負担軽減措置が盛り込まれました。
具体策として1万円未満の少額な対価返還等は返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。
画期的な改正です。
これにより、振込手数料を売上値引として処理した場合、売手から買手に対して返還インボイスを交付する必要がなくなり事務負担が大幅に軽減されます。
しかし、ここで1点疑問が生じます。振込手数料を「売上値引」として処理すれば返還インボイスをの交付義務が免除され、事務負担が軽減されるのはわかりましたが、引き続き「支払手数料」や「雑費」など費用科目で処理した場合についてはどうすればいいのかという点です。
インボイス制度開始後はこれまで「支払手数料」などで処理していた振込手数料を「売上値引」で処理するよう変更すればいいのですが、売上値引とすると売上が減ってしまうためできれば避けたいという企業は多いかと思います。
この疑問について、財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」に以下の記載があります。
問 18.売り⼿が負担する振込⼿数料を、会計上は⽀払⼿数料として処理し、消費税法上は
財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」
対価の返還等と取り扱うことはできますか。
(答)
ご質問のとおり取り扱って差し⽀えありません。なお、消費税法上、売上値引きとして
処理する場合には、対価の返還等の元となった適⽤税率(判然としない場合には合理的に
区分)による必要があるほか、帳簿に対価の返還等に係る事項(※)を記載し、保存する
ことが必要となりますので、ご留意ください。
※ ご質問のように、帳簿上、⽀払⼿数料として処理していたとしても、当該⽀払⼿数料
を対価の返還等として取り扱うことが要件設定やコード表、消費税申告の際に作成する
帳票等により明らかであれば問題ありません。
つまり、会計上は支払手数料として処理し、消費税の計算上は売上値引として処理してもよいということです。
この方法であれば、会計上の科目はこれまで通り「支払手数料」や「雑費」などの費用科目で処理し、会計システムに入力する際の消費税の区分(コード)のみ「課税仕入」から「売上値引」に訂正すればよいため、事務処理の変更が最小限ですみます。
消費税の上では売上値引として認識しているため、返還インボイスの発行も不要です。
私は財務省の回答が発表される前から顧問先にこれまで通り「支払手数料」で処理し、消費税区分(コード)のみ「売上値引」に変更するようアナウンスしていました。
振込手数料を「売上値引」の科目で処理していなくても消費税計算上は売上値引で計算できていれば、科目が支払手数料であろう売上値引であろうと税務署は否認のしようがないためです。
財務省から公式に回答がでて安心しました。
消費税率に注意!
注意が必要なのは、値引として処理する際の消費税率です。
売上値引として処理するため、軽減税率対象取引に関する振込手数料の場合には、軽減税率8%を適用する必要があります。
軽減税率対象取引がある事業者の方は、これまで通り振込手数料の消費税率を10%で計上しないように注意が必要です。
まとめ
売手負担の振込手数料は、会計上は「支払手数料」、消費税計算上は「売上値引」とすることでこれまでの事務処理を大きく変更することなく対応することができます。
また、これを機に不明瞭な取引である売手負担の振込手数料をなくすべく、請求書に「振込手数料は御社(買主)負担でお願いします」と記載し、取引先に振込手数料の買手負担を周知していくことも検討されてはいかがでしょうか。
(参考)
インボイス制度 銀行に支払う振込手数料のインボイス対応 はこちら
インボイス制度 不動産管理会社が行うインボイスの交付 はこちら
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