インボイス制度 買い手が行うべき準備

インボイス制度 買い手側の準備 税金

インボイス制度では、売り手側よりも買い手側としての準備に時間がかかります。

インボイス制度では買い手が仕入税額控除を行うためには、原則としてインボイスを保存しておく必要があり、インボイスの入手、保存、経理処理など、検討しておくべき事項が多くあります。

買い手が行うべき準備事項についてみていきましょう。

買い手の準備事項

(1)インボイスが必要な取引か検討を行う。

①インボイスの交付を受けることができるか確認

仕入税額控除を行うためには原則としてインボイスの保存が必要となります。
そのため、自社の仕入れや経費についてインボイスが必要な取引を確認し、必要に応じて取引先にインボイスを交付してもらえるか確認を行いましょう。
取引先が免税事業者の場合は、インボイスの交付を受けることができません。

②インボイス保存不要な特例を適用できるか検討

インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を行うことができる特例があります。
3万円未満の公共交通機関への支払いや従業員に対する日当、出張旅費、通勤手当の支払、3万円未満の自動販売機等での商品の購入などはインボイスの保存が不要となります。
特例を適用できるか検討しましょう。

適格請求書等保存方式の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされます
(新消法30⑦)。
ただし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、
一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(新消令49①、新消規15
の4)。

① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の
際に回収される取引(①に該当するものを除きます。)
③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸
資産に該当するものに限ります。)の購入
④ 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該
当するものに限ります。)の取得
⑤ 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を
営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
⑥ 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当す
るものに限ります。)の購入
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商
品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵
便ポストに差し出されたものに限ります。)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤
手当)

国税庁 インボイスQ&A問101 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

(参考)
インボイス制度 旅費交通費の精算まとめ

インボイス制度 自動販売機特例の適用範囲と留意点

インボイス制度 飛行機の航空券は公共交通機関特例の対象外

インボイス制度 出張旅費特例は業務委託先への支払でも使えのか?

③契約書の見直し

事務所、駐車場の賃貸借契約書や税理士の顧問契約書など、契約書に基づいて毎月の支払が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引についても仕入税額控除を受けるためには、インボイスの保存が必要となります。

その場合、契約書をインボイスに対応させることを検討しましょう。

インボイスの要件を満たすように契約書を再作成する、又は、既存の契約書で不足している「登録番号」、「適用税率」、「消費税額等」などを別途通知する等の対応が必要となります。

契約書の再作成には、手間がかかるため、「既存の契約書+不足項目の通知」で対応することをお勧めします。

(参考)インボイス制度 契約書のインボイス対応

(2)インボイス等の保存、管理方法について検討を行う。

取引先が交付するどの書類がインボイスに該当するか確認しましょう。
取引先から交付される請求書、納品書、仕入明細書、または複数の書類の組み合わせでインボイスの保存要件を満たす場合があります。
取引先との間で認識を統一しておきましょう。

また、免税事業者との取引について経過措置(80%控除、50%控除)を適用する場合、区分記載請求書の保存が必要となります。

(a)インボイスに該当する書類、(b)経過措置の適用を受ける区分記載請求書、(c)インボイス保存不要な特例を適用する取引など、書類ごとに分けて管理することで、経理処理のミスを減らすことができます。

(3)帳簿への記載方法を検討する。

①帳簿への記載方法、会計ソフトの入力方法を確認

インボイス保存不要な特例や、免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置(80%控除、50%控除)を適用する場合、その旨の記載が必要となります。
「公共交通機関特例」や「出張旅費特例」、「80%控除対象」など帳簿への記載方法を検討しましょう。

また、使用する会計ソフトによっては、特例や経過措置を適用する場合、これまでの入力方法とは異なる場合があります。事前に入力方法を確認しましょう。

(参考)
インボイス制度 免税事業者から棚卸資産を取得した場合の申告調整 

インボイス制度 経過措置を適用する場合の減価償却資産の取得価額

インボイス制度 経過措置(80%控除、50%控除)適用のデメリット

②売手負担の振込手数料について経理処理方法を検討

入金時に差し引かれる売り手負担の振込手数料を課税仕入れとして経理処理する場合、取引先からインボイスの交付を受ける必要があります。
売上の値引きとして処理する場合は、自社が返還インボイスを交付する必要があります。
ただし、1万円未満の少額な値引きについては返還インボイスの交付義務が免除されています。

会計上は「支払手数料」として費用の勘定科目で処理しながら、会計システムに入力する際の消費税の区分(コード)のみ「課税仕入」から「売上値引」に訂正する方法も認められています。
対応方法について検討しておきましょう。

(参考)インボイス制度 売手負担の振込手数料の問題を解決

(4)簡易課税制度の適用を検討する。

簡易課税制度を適用する場合、「仕入税額控除」の代わりに「売上に係る消費税額×みなし仕入率」を使用して消費税の納付額を計算します。
そのため、仕入税額控除を受けるためにインボイスを保存する必要がありません。
インボイスの入手、保存が不要となり事務負担の軽減を図ることができます。

ただし、簡易課税制度の適用には、①基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること、②消費税簡易課税制度選択届出書を事前に税務署へ提出することが必要となります。

また、設備投資が多額となり、簡易課税制度を適用しなければ消費税の還付を受けることができる場合でも、還付を受けることはできないため注意が必要です。

(5)負担軽減措置の適用を検討する。

「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)」や「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)」とよばれる経過措置が設けられています。
適用できるか検討しましょう。

国税庁:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要

国税庁:少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要

(参考)
インボイス制度 税込1万円未満の取引についてインボイスの保存が不要となる少額特例とは?

(6)その他

①価格の見直し

免税事業者との取引は、インボイスの交付を受けることができないため、買い手側の消費税負担が増加します。
必要に応じて取引先と価格を含めた取引条件の見直しを相談しましょう。

②業務フローの見直し

受け取った請求書等がインボイスに該当するかをだれが判断するか決めておきましょう。
請求書等を受け取った者、経理担当者など、自社の体制によって決めておく必要があります。

また、新規取引先との取引を開始する際に、事前にインボイスの情報についてどこまで確認するかルールを決めておきましょう。

まとめ

インボイス制度は、買い手側としての準備のほうが売り手側の準備よりも時間と労力がかかります。
買い手側の準備を怠ると思わぬ消費税負担の増加に繋がりますので、上記の準備事項について十分に検討を行いましょう。

(参考)
インボイス制度 販売奨励金のインボイス対応 はこちら

インボイス制度 銀行に支払う振込手数料のインボイス対応 はこちら

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