インボイス制度では、旅費交通費について仕入税額控除を行うためには原則としてインボイスが必要となります。
しかし、「出張旅費特例」が適用できる場合は、帳簿の保存のみで仕入税額控除を適用することが認められています。
では、出張旅費特例は、業務委託契約を結んでいる取引先との旅費交通費の精算にも適用できるのでしょうか?
出張旅費特例の適用範囲は従業員等に限定
結論から言いますと、業務委託先との旅費交通費の精算に出張旅費特例は適用できません。
なぜなら、出張旅費特例の適用対象は「従業員等」に限定されているためです。
問 107 適格請求書等保存方式の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件ですが、
一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の要件を満たすのは、どのような場合
ですか。【答】
適格請求書等保存方式の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされます
(新消法30⑦)。
ただし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、
一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(新消令49①、新消規15
の4)。(省略)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤
国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&Aより
手当)
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)について出張旅費特例が適用できます。
従業員等とは?
ここでいう「従業員等」とは、法人税法第2条15号に規定する役員又は使用人のことをいいます。(消費税施行規則第15条の4)
法人税法第2条15号では役員を次のように規定しています。
十五 役員 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。
法人税法第2条15号より
使用人は、法人と雇用関係がある者をいいます。
つまり、業務委託先は、役員でも使用人でもないため、出張旅費特例の対象外となります。
業務委託先と業務でかかった旅費を精算する場合、業務委託先がインボイス発行事業者であれば業務委託料に旅費分を上乗せして請求してもらうことを検討しましょう。
この方法であれば業務委託先のインボイスのみで仕入税額控除を行うことができます。
(その場合、旅費は業務委託先の経費となる)
内定者の交通費は出張旅費特例の対象
では、企業が内定者に対して支給する交通費等については出張旅費特例の対象となるのでしょうか?
内定こそしていますがまだ従業員等ではないため、出張旅費特例の対象外となる気もします。
これについては、税務通信NO3758号に記事が記載されています。
内定者については、入社する前の状態であるが、企業から内定通知を受け、企業に対して入社誓約書等を提出しているなど一般的な場合には、始期付解約権留保付労働契約が成立していると解される(最高裁昭和54年7月20日判決等)。始期付解約権留保付労働契約は、条件付きではあるものの労働契約の一種であることから、内定者には企業と雇用関係があるとされ、出張旅費特例の対象となる“従業員等”に含まれるとのことだ。
税務通信No3758号より
内定者は企業との間に雇用関係があるため、出張旅費特例の対象となるようです。
また、インターン生に対する交通費は、インターンの実態として従業員等といえる雇用関係があれば特例の対象となるようです。(税務通信No3729)
採用試験の受験者に対する交通費は対象外
出張旅費特例の対象となるかどうかを「従業員等」に該当するかで判断していくと、例えば、採用試験、入社試験を受けに来た受験者に対して支払う交通費は、まだ試験時点では「従業員等」と呼べる状況にないため、出張旅費特例の対象外となるでしょう。
採用活動の一環として受験者に対して交通費の実費相当額を支給している法人は多いです。
受験者より領収書の提出を受けて実費精算する方法に切り替えるなどの検討を行いましょう。
出張旅費特例は、煩雑な旅費の精算を帳簿のみの保存で仕入税額控除を適用できるとても便利な特例ですが、適用範囲に誤りがないように今一度確認しておきましょう。
(参考)